ザ・ピンチヒッター
ザ・ピンチヒッター

あなたのエリアの対新型コロナウイルス支援制度がわかる、見つかる!

小規模企業の経営ピンチを救う総合情報サイト

人気海水浴場、伊豆白浜の民宿は コロナ禍の夏をどう乗り切ったのか

  • 静岡県
  • 下田市
  • 宿泊
トップ > 事例 > 人気海水浴場、伊豆白浜の民宿は コロナ禍の夏をどう乗り切ったのか
人気海水浴場、伊豆白浜の民宿は
コロナ禍の夏をどう乗り切ったのか
日本有数の海水浴場、伊豆白浜。周辺に軒を連ねる宿泊施設にとって、夏の客足はその年の売上を左右する最も大事な勝負のシーズンです。コロナの影響で観光客の大幅な減少が心配された中、宿泊業界はコロナ禍の夏をどう乗り切ったのか。2018年にリニューアルオープンした温泉民宿勝五郎(静岡県下田市)の土屋尊司さんにお話をうかがいました。

活用した支援制度

  • 持続化給付金
  • 下田市新型コロナウイルス感染拡大防止協力金(休業要請分)

Uターンして民宿経営、4〜5月は売上ゼロ

 
ーー民宿は祖父母から引き継ぎ、Uターンして再開されたそうですね。
 
勝五郎は祖父母が始めた小さな宿です。祖父が亡くなった後は祖母が営業を続けてましたが、その祖母も高齢化し遂には廃業してしまいました。
 
ここは僕が生まれ育った大切な場所。「なくしたくない」と当時勤めていた空間デザイン会社を辞め、Uターンして再開しようと決めました。
 
そして2018年6月、約3年ぶりに勝五郎はリニューアルオープンしたんです。今は奥さんと息子、家族3人でのんびり暮らしながら、宿を切り盛りしています。
 
宿泊部屋がわずか3つの小さな宿。僕らは大手の宿泊サイトには一切情報を載せていません。基本はホームページと口コミでの集客です。それでも、アットホームな雰囲気を気に入って来てくださる方々がたくさんいます。


(リニューアル前の勝五郎)


(リニューアル後は黒を基調とした外観に)

ーーそこにやってきたコロナ危機。ブログでは「今年は春休み、 GWと力を入れていこうと思っていた矢先に…」と意気消沈した様子が綴られています。
 
3月初旬はちょうど閑散期だったこともあり、様子を見ようと半月ほど休業しました。ただその後、感染状況はむしろ悪化してしまいました。それで4月から5月のゴールデンウィーク(GW)まで再び休業しようと。それでも収まる気配がなく、休業期間は結局5月末まで続きました。
 
ですから、4〜5月は売上ゼロです。昨年のGWは「こんなに賑わうのか」と盛況だったので、今年も期待してたんですけどね。

フェイスブックでグループ結成、オンライン意見交換会も

 
ーーそれから「これはまずい」と対策を考えるようになるわけですね。
 
本格的に動き始めたのはGW明けです。夏の書き入れ時に向けて対策を考えていこうと。
 
どんな対策が必要なのか、まずはひたすら文字にして書き出してみました。消毒、換気…1つずつ羅列していくと、膨大な数になってしまって。「これは1人で悩んでいる場合じゃないぞ」と。
 
ーーどうしたんでしょうか?
 
ちょうどその頃、下田の飲食店を中心に有志でクラウドファンディングが行われていて、僕らもそれに参加してたんです。そこで、一緒に名を連ねていた宿泊関係者に「コロナ対策を一緒に考えませんか?」と声をかけました。
 
それが第一歩。それからフェイスブックで同業者の公開グループ「宿泊業における新型コロナ対策」をつくって情報共有したり、オンラインで意見交換会を開催する流れが生まれていったんです。
 
ーーフェイスブックのグループではどんな情報交換を?
 
悩みがあれば、誰かが答える。そんなイメージで、例えば僕は勝五郎のホームページに載せている感染対策項目を記したファイルや、トイレの蓋閉めを注意喚起するカードのデータを共有して、「ダウンロードして自由に使ってください」と投稿したりしました。
 
ほかにも、行政や保健所、観光協会の情報など、メンバー各自が参考になりそうな情報を随時シェアしています。


(感染対策項目を列挙したチラシのデータ。※写真はその一部を抜粋)


(トイレの蓋閉めを注意喚起するカード。いずれもイラスト入りで見やすさを重視)

ーーフェイスブックを見ると、みなさんとても熱心に投稿されてますね。
 
最初は6〜7人のメンバーで立ち上げましたが、どんどん増えて現在は34人のグループになりました。
 
僕自身はUターンしてからまだ日が浅いですし、同業者とは決して日頃から親密に交流していたわけではありません。でも、それがこのコロナ危機でみんなが団結したようなところがあります。
 
この地域は、夏にかける思いがとにかくすごいんですよ。勝五郎の場合、宿泊業だけで言えば7〜9月の売上が約70%を占めます。他の観光地と比べても夏の需要が飛び抜けているので、年間の売上が大きく左右されます。その夏が、今年はどうなるのか。危機感は大きかったはずです。


(6月のオンライン意見交換会の様子は地元メディアでも紹介された。※静岡放送のYouTubeチャンネルをキャプチャ)

ーー具体的にどんなことが役立ちましたか?
 
個別の対策がどうかというよりも、とにかくいろんな意見を聞き、知ること。それによって選択肢の幅が広がったり、判断基準ができたのが大きかったですね。
 
例えば消毒1つとっても、宿の規模やマンパワーによって対策の仕方は随分違います。清掃業者にすべて任せているところもあれば、スタッフが手作業で地道に対策しているところもあります。
 
「ここまでやっているのか」「うちはここまでならできる」「これは厳しいけど、こうやってカバーしよう」。そんな風に、自分たちのスタイルに合った対策をピックアップできる。さらに、「これで大丈夫かな」といった迷いが薄れ、「できることを徹底してやろう」と前向きになれる。そうした意識的な部分でも、いい効果があったと思います。
 
ーー単独でやるよりも、同業者や地域全体で協力するメリットは大きいんですね。
 
勝五郎の場合で言えば、僕らは夫婦間の会話だけで何でもスピーディーに動ける反面、どうしても考えが凝り固まってしまいがちな面があります。でも今回痛感したのは、1人で悩むよりも、10人で悩んだ方がいろんな意見が出てくるということ。
 
それに、こんなこともありました。ある日、下田にある大型ホテルの対策を視察したんです。これは、グループの1人がたまたまそのホテルとコネクションがあったので実現しました。
 
浴室のドライヤーの消毒には引火防止のためアルコール系ではなく次亜塩素酸水を使うとか、海水浴場のロッカーは使用せず部屋と海を直接行き来してもらうとか。

少ない人数でやっていると見落としがちな部分も含めて、とても参考になりましたね。視察の様子は後日、フェイスブックのグループで共有しました。

泊まるだけじゃない、出会いを楽しむ民宿として

 
ーーそうして迎えた今年の夏。観光客の動きはどうでしたか?
 
宿は6月中旬に再開し、縮小営業のため普段の夏と比べると宿泊者は少ないですが、それでも7月末〜8月のお盆にかけてはホームページと口コミの集客だけでも忙しく過ごせました。今はホッと一段落、という感じです。
 
「ホームページを見て対策をしっかりしてされているので、大丈夫かなと思いました」。来てくださったお客様から実際にそう言っていただけるなど、コロナ対策についてホームページなどで発信してきたことで安心感を与えられた面があると思います。
 
実は、常連さんは「迷惑をかけたくないので遠慮しておく」と半分ほどがキャンセルになったんですが、その分新規のお客様が来てくださったんです。縮小営業とはいえ、お盆や土日はお断りしなければならない予約問い合わせもありました。
 
ーーそれはうれしいことですね。
 
連日の猛暑でマスクを着用しながらの念入りな消毒や掃除は大変で、換気をしても30度超えの熱風が入ってくる。すべて妻と2人の作業です。

体力と精神力を削られるような日々でしたが、やっぱりお客様が来てくれるのはうれしいですよね。いつもよりコミュニケーションの量は減っても、ちょっとした交流に「やっぱり宿はいいな」と。
 
そうは言っても、今年の春夏はコロナで売上が大きく減少しました。年間を通じてお客様をどう受け入れるか、これは下田の宿全体の課題でもあります。
 
ーー何か考えてらっしゃることがあるんでしょうか?
 
1つの方向として、僕らは以前から「宿泊業に頼りすぎない営業をしよう」という思いを持っていました。
 
例えば、デザインやイラストの仕事をもっと「場づくり」に生かせないか。

ここにUターンしてからイラストの仕事もするようになって、地域の事業者さんと一緒にパンフレットを製作したりしています。また、イラストのワークショップを開催したこともあるんです。それと、映画の自主上映会も。コロナで密の問題はありますが、そうやって幅を広げていくことも考えていきたいですね。
 
宿については、今はいろんな使い方を模索していくチャンスでもあります。飲食ならデリバリーやテイクアウトにチャレンジしているように、僕らも新しい方法を受け入れていくことが求められてるんでしょうね。


(今年1月に開催したイラストワークショップの様子)

ーー勝五郎の新しい姿ですね。
 
この宿の売りにしたいのは、「僕ら(家族)の存在」です。豪華なホテルではなく、個人経営の小さな宿になぜ来ていただけるのか。それはやっぱり、「人」「出会い」ですよね。
 
僕ら夫婦は人と話すことが大好きなんです。宿をやっていると、普通だったら出会えないような人たちと話ができる。それが何より楽しくて、こんな贅沢な仕事はないなと思うわけです。


(21畳の大きな共有スペースは、まさに「出会い」の場になっている)
 
単に泊まるだけなら、ビジネスホテルのシングルルームで十分なわけじゃないですか。そうではなく、人の出会いを求めて来てくださる方々を大切にしたいんです。
 
出会いを楽しむ民宿として、生まれ育ったこの場所を少しでも活気溢れる町にするために。これからも家族で力を合わせてがんばっていきます。

トップ > 事例 > 人気海水浴場、伊豆白浜の民宿は コロナ禍の夏をどう乗り切ったのか