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通販800万円超、キャンプ8割増。 サブ事業を成長の柱に変えた北アルプスの山小屋

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通販800万円超、キャンプ8割増。
サブ事業を成長の柱に変えた北アルプスの山小屋
日本を代表する山岳観光地の北アルプス・上高地(長野県松本市)。今シーズンはコロナに加え地震や豪雨も襲いかかり、周辺の宿泊施設は長く営業休止を余儀なくされました。そんな中、創業135年の山小屋「徳澤園」は通販の売上が16倍、キャンプも8割増と脇役だった事業が大きく伸長。代表の上條靖大さんに、激動のシーズンを振り返っていただきました。

活用した支援制度

  • 持続化給付金
  • 雇用調整助成金
  • 国立・国定公園への誘客の推進事業費補助金

通販の売上が800万円超に。蜂蜜とマスクがヒット


ーーコロナ感染が広がったのは、登山シーズンの開幕直前でしたね。

徳澤園のある北アルプス・上高地のシーズンは4〜11月です。雪が積もる冬の間はどこも宿を閉めるので、その期間は収入がほとんどありません。

短いシーズンの間にいかにお客様に来ていただくか。これが山小屋のビジネスモデルです。コロナはまさに、そんな待ちに待ったシーズンインの直前にやってきました。


(徳澤園は上高地バスターミナルから徒歩約2時間の場所にある)

災難はさらに続きます。4月に上高地を震源とする地震が頻発し、7月には記録的な大雨に見舞われアクセス不能の状態に。結局、7月中旬まで小屋の営業はできませんでした。

さらに、今年は私たちにとってメモリアルイヤー。小屋の開設から135周年の節目、それと4月1日に社長交代があったからです。社長就任直後に降りかかった前代未聞の試練でした。


(4月に社長に就任した上條さん)

ーー苦しい中で、どうやって打開の糸口を見つけていったんでしょうか?

「未来の宿泊券を売ってください」「なんでもいいから支援させてください」。全国の常連客のみなさんから、手紙や電話で激励の声がたくさん届きました。

お客様を迎え入れることはできないけど、お客様の元に何かを届けることならできる。そう思って、まずはWEBショップをリニューアルしました。

新商品を開発したり、現地でしか買えないものを売り出すと想像以上の反響がありました。これまで売上は年間50万円程度だったんですが、今シーズンだけで一気に800万円超まで急増したんです。

ーー800万円超ですか!すごい変化ですね。

中でも一番のヒット商品になったのが、3種の蜂蜜をセットにした「俺の三蜜」(4600円)です。

きっかけは、提携する養蜂園を訪ねたときのこと。観光客に人気で普段なら入手できない希少な蜂蜜が、今年はコロナの影響で余っているというのです。

もともとこの養蜂園から仕入れた蜂蜜を2種販売してたんですが、今年はその希少な蜂蜜を加えて3点セットにして販売することにしました。

商品名は一か八か、少しでも注目してもらおうとあえてナイーブな言葉を使いました。結果的には用意した200セットが一瞬にして売り切れ、「暗いときに明るい気持ちになれた」と好評でした。


(発売後、即完売した「俺の三蜜」)

そして、もう1つが「ヤマノマスク」(2250円)です。京都のスポーツタオルメーカーCHAORAS(チャオラス)と共同開発したアイテムです。

素材やデザインにこだわったマスクにしようと、それらに定評のあるCHAORASにオファーしました。大きさや形、素材など、何十回も交渉を重ねて約2カ月かけて完成させ、700枚以上売れるヒット商品になりました。


(素材とデザインにこだわった「ヤマノマスク」)

企画書をつくったり、数字を並べて戦略を練ったり。今までそんなことはあまりしてこなかったんですが、この時期は浮かんだアイデアを毎日必死に紙に書き込んでましたね。

おかげさまでWEBショップの売上は急増しましたが、私たちにとってそれ以上にうれしいことがあったんです。

ーー売上よりも大切なもの、ですか?

それは、お客様とつながれたことです。うちのスタッフはお客様と触れ合うことが大好きで、そのために北海道から九州まで全国各地からこんな山奥にまで働きに来てくれています。それが今年は、ずっと家に閉じこもるだけの日々…。

そこにWEBショップが風穴を開けてくれました。毎日大量に届く注文、そこには「がんばってください」「収束したら必ず行きます」と涙が出るようなメッセージが添えられていました。それを見る度に、お客様とつながっている実感を得られたんです。沈んでいたスタッフのモチベーションはどんどん上がっていきました。


(接客できない中、スタッフは懸命に梱包作業を行った)

キャンプ場利用が8割アップ。初心者向け「ぶらキャン」が好評


ーーそして、7月中旬にようやく山小屋の営業がスタートしました。

出足はいまいちでしたが徐々に挽回し、8月の売上は前年同月比56%、9月は71%、10月は115%と前年を上回りました。そして、その中で新たに見えてきたものがあります。

ーー新たに見えてきたものとは…

私たちの強みを再発見できたんです。それは、広大なキャンプ場を持っていることです。

徳澤園の売上は山小屋の宿泊を軸に、併設する食堂と物販(売店とWEBショップ)、キャンプ場の4つの部門で成り立っています。

その中で、今シーズン最も大きく伸びたのがキャンプ場でした。売上が9月は184%、10月も172%と今まで見たことのない数字を記録したんです。


(広大なキャンプ場には色とりどりのテントが並ぶ)

ーーなぜそんなにキャンプ場の利用が増えたんでしょうか?

屋外のキャンプなら人混みが避けられるのと、新たに始めたサービスが好評だったのも大きかったですね。

そのサービスは、手ぶらでキャンプ。略して「ぶらキャン」です。コンセプトは、これからキャンプを始めたい人たちに向けた山岳キャンプの入口。

キャンプにはテントや寝袋などいろんな用具を買い揃える必要がありますが、ぶらキャンではテントや寝袋、テーブル、椅子などを一式貸し出し、食事も弁当付きのプランを用意しました。


(「ぶらキャン」ではテントなどキャンプ用品一式をレンタル)

ーーテントをはじめ、豪華なキャンプ用品が目を引きます。 

売店やWEBショップのグッズ販売でコラボしているアウトドアメーカーのTHE NORTH FACE(ザ・ノース・フェイス)やA&Fカントリーに揃えてもらいました。2社とも私たちの窮状を心配してくれて、相談したら全面的に協力してくれました。

これまでは山小屋の宿泊をいかに増やすかが最大の関心事でしたが、今シーズンは従来3〜4番手だった物販とキャンプ場が大きく伸び、脇役のポテンシャルの高さに気づかされました。来シーズンは、むしろキャンプ場が主軸になる可能性もあるでしょう。

富士山と連携、山小屋の新しいスタンダードをつくる


ーーその来シーズンに向けて、何か具体策があれば教えてください。

広いキャンプ場を持っている強みを生かして、「ぶらキャン」とともに新しい企画として「ぶらキャン ベース」を建てられないか検討中です。

ーーどんな建物か、とても気になります。

まだ構想段階ですが、雨露をしのげる屋根をつけて、そこで簡単な調理ができたり、ゆっくりくつろげるような空間をイメージしています。

そして、そこにはキャンプのマナーや用具の使い方を教えるコンシェルジュを常駐させるつもりです。コロナ禍で仕事を失っている山岳ガイドを雇用できないか検討しています。


(「ぶらキャン ベース」のイメージ)

ワーケーションに注目が集まっている中、仕事場や研修施設としての利用も考えています。山でのいろんな楽しみ方、過ごし方を提案していきたいですね。

ーー他の地域や山小屋との連携も進めているようですが。

北アルプスのよきライバルである富士山。その山小屋の若手経営者のみなさんが視察に訪れ、コロナ対策や将来の山小屋のあり方などについて意見交換しました。今まで交流したことはなく、初めてのことでした。同じように、北アルプスの山小屋の経営者とも今後について話し合う機会をつくりました。


(北アルプスの山小屋経営者たち。右端が上條さん)

山は違っても、思いはひとつ。これから私たちは、コロナとうまく付き合いながら山小屋の新しいスタンダードをつくっていく必要があります。

ーー山小屋の新しいスタンダード、ですか。

例えば、予約のキャンセルです。今シーズンは多くの山小屋が定員・予約制を採用しましたが、キャンセル料をとらないところも多いため、中には必要以上に仮予約するお客様がいらっしゃって、その分新規の予約がなかなか受けられない問題がありました。

今後はキャンセル料をいただくようにするなど、山小屋とお客様が互いにリスクをシェアできるようなルールづくりが必要でしょう。

ここで大事なのは、それを地域全体、あるいは全国の山岳地域で足並みを揃えてやることです。今はサービスを競い合っている場合ではありません。全国の山小屋が一致団結して知恵を出し合い、山岳文化を守っていく必要があります。

今シーズン、上高地には20〜30代の若い登山者が目立ちました。コロナ禍の中、登山をはじめとするアウトドアレジャーの需要は高まっていくはずです。これをチャンスととらえて、全国の山小屋と協力しながら登山文化を広げていきたいですね。

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