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社員のマルチタスクで変わる飲食店。 居酒屋チェーンの業態改革に迫る

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社員のマルチタスクで変わる飲食店。
居酒屋チェーンの業態改革に迫る
withコロナの時代、飲食店はどうすれば生き残れるか。徹底したコスト削減と、マルチビジネス化を加速させている会社があります。「郷土の食と食文化を発信、提供する」をコンセプトに、「土佐清水ワールド」などの居酒屋をチェーン展開しているワールド・ワン(神戸市)。アフターコロナの戦略について、取締役の眞鍋邦大さんにお話をうかがいました。

活用した支援制度

  • 新型コロナウイルス感染症特別貸付
  • 持続化給付金
  • 雇用調整助成金

相次ぐ休業。社員140人の雇用をどう守るか


ーーコロナによって飲食業界は大きな打撃を受けています。

例年なら繁忙期だったはずの3月から客足が遠のき始め、4月から一気に苦しくなりました。売上は約95%減です。5月も変わらず大変厳しい状況でした。

国や県の自粛要請や緊急事態宣言に合わせて大半の店舗を休業し、4〜5月は神戸にある4店舗だけ営業時間を短縮して開けていました。今は全29店(2020年6月時点)のうち、20店ほどで営業しています。

ーー神戸の4店だけ営業を続けたのは、どういう判断だったんですか?

コアなお客様のニーズが一定程度あるだろうということ、また本社から近く、臨機応変に事態に対応可能だと思ったからです。

弊社のポイントカード会員は約6万人ほどおり、うち2万人ほどが年間2回以上来てくださるリピーターです。中でも、神戸には古くからのファンが多くいらっしゃいます。


(主力ブランドの「土佐清水ワールド」)

ーーどの飲食店も、まだ人が戻らず苦しんでいるように見えます。

もう居酒屋需要だけで家賃や人件費を賄う収益モデルは厳しいんじゃないか。3月から雲行きが怪しくなってきた頃から、そう考えるようになりました。ですから、休業と同時にあらゆる面でコストカットを徹底していったんです。

まずは、アルバイトを活用する店舗運営から、社員のみによる店舗運営に切り替えました。

当社には社員が約140人、アルバイトが約1000人(登録ベース)います。繁忙期と閑散期に合わせて柔軟に配置できるように、大量のアルバイトを抱えてたんです。それを見直して、できるだけ最小限の社員のみで回していくことにしました。

人を減らしてどこまでやれるか。これにチャレンジしながら、並行してできる限りのコスト削減を行っていきました。

ーー具体的にはどんなコストカットを?

メニュー、役員報酬、グルメサイトへの販促費、会員向けの冊子、それに家賃の減免交渉なども。PL(損益計算書)を凝視しながら、今まで全く意識していなかったようなものも含めて、とにかくあらゆるものを削ぎ落としました。

一方で、目の前の売上を少しでも確保することも必要です。ランチ営業だけでなく、テイクアウトにデリバリー、法人向けの弁当配達サービス。さらに通販も強化するなど、居酒屋+αの機能を加えてなんとか収益源を増やそうとしてきました。

そんな徹底したコスト削減などの結果、今となっては組織のあり方自体を大胆に変えることになったんです。


(法人向け弁当配達を開始。写真は「山陰かに飯とアジフライ弁当」)

絶対に切り離せない2つの価値の源泉


ーーどういうことでしょう?

あらゆるものを切り離していった先に、それでも絶対に切り離せないものが見えてきました。「ヒト」(人件費)と「場」(賃料)です。飲食店にとってこの2つだけは、どうしても切り離せないビジネスの根幹です。

コロナ前は「三密」が価値の源泉だった飲食業界。しかし、コロナによって人口過密都市の脆弱性が露わになり、田園回帰の動きも一部には見られています。場の運営方法として「三密」への対応は当然行わなければなりませんが、私たちが大切にしてきた「郷土」というコンセプトは改めて注目されるはずです。

「郷土」という強みは維持したまま、そのうえでいかに「ヒト」と「場」を効率的に活用するか。これがアフターコロナの最大のテーマになると考えました。「ヒト」と「場」の効率的な活用。具体的には、「マルチタスク化」と「多機能化」です。

ーー「マルチタスク化」と「多機能化」ですか。

まず、「マルチタスク化」です。ホールは接客のみ、キッチンは調理だけ。これまではそうした分業制が業界の常識でした。その垣根を取っ払うのです。

それだけではありません。デリバリーの配達や弁当づくりなど、とにかく何でもやる。社員には、そんなマルチタスクワーカーになってもらおうと決めました。少ない人数でもうまくタスクをシェアできれば、柔軟にシフトが組めるようになります。

すでに店舗組織図の見直しに着手しました。アルバイトは基本的に雇わず、社員と新設した準社員だけで回します。同時に、分業制からユニット制にシフトしました。これまでは各店に店長、料理長、社員、アルバイトが張り付くかたちでしたが、今は違います。

例えば、神戸にある20店ほどを4〜5つのユニットに分けて、各ユニットに店長ではなくユニットリーダーを新設。そのリーダーが複数の店舗を見ながら、ユニット内でスタッフや休日をやりくりしています。


(デリバリーサービス「おうち de 居酒屋 郷土ワールド」)

ーー場の「多機能化」は…

キーワードは「複合施設」、そして「メーカー」です。デリバリー、テイクアウト、マルシェ、物販。単なる居酒屋というサービス業から、食を総合的にプロデュースするような会社に転換していく必要があります。

デリバリーや法人向けサービスなど、今はとにかくいろいろ試している段階ですが、この短い期間で見えてきたこともあります。

例えば、デリバリー。「家でちょっと豪華な食事をしたい」というニーズがあることがわかったので、今後は一定金額以上の注文は配達エリアを広げるなどして収益を増やしていく計画です。

コロナが課題解決を一気に加速させた


ーー業態そのものを変えていく、ということですね。

例えば、こんな構想もあります。“半分は文化施設”のような店です。

場所は、「青森ねぶたワールド」というお店。ここではもともと、津軽三味線のイベントやサメの解体ショーなどのイベントを企画してきましたが、営業時間外の日中は練習場所に使ってもらうとか、そんな新しい使い方ができないかと。「三味線を練習する場所がない」というお客様からの声から着想しました。

さらに、足元では10月にサラダとスープの専門店をオープンする予定で、ここではイートインだけでなく自社開発したドレッシングを販売する予定です。

さらに、青森りんごを使ったグルテンフリーのスパイスカレーを開発中で、この専門店でも提供するかもしれません。今後、大型リニューアルを含めて新しい業態にどんどんチャレンジしてきます。


(青森りんごのスイーツ専門店「あら、りんご。」)

「ヒト」のマルチタスク化と「場」の多機能化。2つを進めていくうえで大切なのは、まずマルチタスク化から手をつけることです。

「場」に機能を持たせることは時間がかかりますし、そもそも社員一人ひとりのマルチタスク化、つまり生産性が向上しないと、いくら多機能化を進めても追いつかないからです。マルチタスクができるようになって初めて、マルチビジネスが実現できるんです。

どちらも言葉にするのは簡単ですが、現場はそんなに楽ではありません。でも、そこは社風と現場力。役員も社員も一丸となって突き進もうという思いは一緒。みんなで力を合わせてがんばっています。

ーーそれにしても、すごいスピード感ですね。

コロナがあったからこそできた。そう言ってもいいでしょう。

そもそも以前から、利益率の低さは業界の問題でもありますし、われわれの課題でもありました。

2002年に神戸で沖縄料理屋を始め、2015年には現在の主力ブランド「土佐清水ワールド」を神戸にオープン。これは各地域と連携協定を結んで、その地域の食と食文化を発信するコンセプトの店ですが、これが評価されてその後急速に店舗が増えていきました。

東京や大阪にも進出し、年間平均5〜6店、多いときは8店ほど新店をオープンしてきましたが、その一方で体質改善にはなかなか手を付ける余裕がありませんでした。


(沖縄料理屋からワールド・ワンの歴史は始まった)

そんな中、昨秋に思い切った方針転換に踏み出しました。新規出店はいったんストップし、利益率を上げていく方向に舵を切ったんです。

コロナはまさに、そんな最中にやってきました。構造改革を加速させないといけない。コロナがその思いをより強くさせたんです。

それと、こうやって一気に進められたのは、社風も大きいと思います。社長と役員は30〜40代、社員は20〜30代が中心と若く、社長をはじめこの危機を「今までできなかったことにチャレンジできる機会」と前向きにとらえるマインドがあったからです。

居酒屋だけではない、各地の郷土食を総合プロデュースする会社へ。新時代のワールド・ワンを、これからみなさんにお見せしたいと思います。

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