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【教えて!】千正さん、行政制度はなぜこんな分かりづらい? 支援が届かない?

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【教えて!】千正さん、行政制度はなぜこんな分かりづらい?
支援が届かない?
持続化給付金や雇用調整助成金、無利子融資や税金の支払猶予など、コロナ対策で様々な支援制度が揃いました。一方で、「よく分からない」「申請が面倒」「申請したのにお金が届かない」そんな声も多数聞こえてきますが、なぜなのでしょう。識者に裏側を聞く【教えて!】シリーズ第一弾は、「政策のプロ」千正康裕さんにお話をうかがいました。

プロフィール】千正康裕(せんしょうやすひろ)

2001年厚生労働省入省。年金、雇用・労働政策、子育て、女性支援、医療、社会保障などの分野で8本の法律改正に携わる。大臣政務官秘書官や在インド日本国大使館一等書記官も経験し、医療政策企画官を最後に2019年9月末に退官。2020年1月に株式会社千正組を設立。ビジネスコンサルティングや政策提言などの活動を行うほか内閣府男女共同参画局安全・安全WG委員を務める。官僚時代から民間企業やNPOとの交流の傍ら約10年実名でブログやツイッター(@yasusensho)などで発信を続けている。

支援メニューを増やしても、このままでは届きません


−−対コロナの事業者むけ支援策について、どうご覧になっていますか?

メニューは「とりあえずは出ている」と言えると思います。これから2次補正予算が編成され追加の支援策の議論も進められています。でも、それだけでは解決しません。

メニューの内容も大事ですが、このままだと支援策がなかなか届きません。端的に言うと、役所がパンクしているのです。

−−役所がパンクしているとは?

申請された内容を審査したり、書類の漏れを確認したり、役所側で処理する必要がありますよね。そこが追いついていないんです。平常時の仕事量にあわせた人数しかいないところに、何十倍もの仕事量が来ている。さらに、外注する文化もありません。

たとえば、雇用調整助成金やテレワーク助成金、小学校休業等対応助成金などは私の古巣の厚生労働省の担当です。各地のハローワークなどもパンクして、霞ヶ関で官僚もかき含めて、いま文字通り不眠不休の状態で審査しています。コロナの感染症対策に加えていま出ている一次補正予算のメニューをこなすだけで、厚労省は倒れてしまうかもしれないと危惧しています…。

−−メニューについてはとりあえず出ている、と。

まず前提として、十分かどうかは例えば休業がどこまで続くかによります。今回はとにかくスピード優先でお金を届けて「倒れないようにする」支援ですが、状況によって政策の需要は変化していきます。タイミングごとに必要な支援策をうつPDCAサイクル(継続した改善運用)を回すことがより大切なんです。

今で言えば、持続化給付金は事業収入の前年同月比50%の減少という条件は厳しくないかとか、事業収入を見るだけでよいのかとか、もちろん改善点はいくらでもあります。ただし「届かない」という問題がより大きいと考えています。苦しい企業や人ほど急いで届けないと持ちこたえられないですから。

−−雇用調整助成金については、難しすぎるという声が多いです

そうですね、要件も細かいし、申請手続きもとても大変ですし、活用しづらい事業者の方もとても多いと思います。

今回「はやく支援する」ために、既存の仕組みを拡充するという方法をとったのだろうと思います。

−−でも、実際には時間がかかっていますよね?

支援策を届けるには2つのステップがあります。支援策を意思決定すること、そして実際に配ることです。

新しく制度をつくるのは意思決定や運用を決めて現場の実務に落とし込むまで通常であれば2年くらいかかるものです。すでにある雇用調整助成金を拡充する方が手っ取り早いという判断だったのだと思います。原資となる雇用保険のお金もこういう時のために確保できていますし、意思決定は圧倒的に早いです。

ただし、経営が傾いた企業の収入を緊急的に補填するための助成金ではないので、要件も厳しいし、配るのに時間がかかります。

一方で、純粋に企業の収入減少を緊急的に補填するために、持続化給付金は今回新しくできたものです。要件も手続もはるかにシンプルなので、申請から給付までは早いです。

−−雇用調整助成金はもっと柔軟にならないのでしょうか?

もともと不況時の雇用維持の支援として、主に生産が縮小した工場のようなケースを想定して、雇用を確保する目的でつくられたものです。ただ、不正受給の歴史があって役所は叩かれてきたんです。だから要件が細かくて審査も厳しくなった。「助けたい」から「悪いやつをはじかなくては」というマインドが色濃く出ています。

今回、いろいろなマイナーチェンジは重ねられてますが、基本設計はなかなか動かしづらい。雇用保険の保険料を使っているので、基本的に雇用保険の事業主に限られる、とかそういうところです。

なので、2次補正予算に向けて新しい仕組みが検討されていますね。これから労働者本人が申請できる仕組みを作ろうとしています。

−−改善のPDCAサイクルによって必要な支援を追加するのですね

そうですね。雇用調整助成金以外にも2次補正予算には、家賃補助や学生向け支援なども盛り込まれそうです。

制度をつくって運用して、受け手や現場から課題が声としてあがって、政治がその声を取り上げ、政府が改善をする。こうしたサイクルが少しずつできてきていると思っています。今回、生活支援の給付金が、一部の人に30万円だったものから全国民に一律10万円に変わったのは、世の中の人の声を政治が取り入れたその大きな一例です。

こうやって国民の声がちゃんと政治に届いて改善されていくことは、素晴らしいと感じています。

ただ、繰り返しですが支給事務を行う役所がパンクしていては、支援は結局届かない。霞が関の官僚までが支給事務をやり始めていますが、彼らは制度の改善策を考えるのが本来の役割です。このままでは、なかなか支援も届かないし、届いたとしても改善策を考える人がいなくなるので、PDCAサイクルがストップしてしまいます。ここの解決が本当に重要です。

役所のパンクを解決するために


−−この届かない問題は解決できるのでしょうか…?

パンクしているんだから、処理能力を増やすしかないですよね。民間企業では当たり前にしていることを、霞ヶ関も文化として取り入れるということだと思います。

端的に言うと、外注していくということです。

−−具体的にはどのような外注が必要なのでしょうか?

外注には2つあります。人海戦術と、システム化です。

人海戦術は、コールセンターの会社に委託することをイメージしてもらうとよいと思います。これは法律的な縛りもありませんし、実績もある。外注費をちゃんと予算に計上すべきです。

当座、すぐに止まっている仕事を動かすには人海戦術が必要ですが、中期的にはシステム化によって役所の仕事自体を減らすことと国民の利便性を高める必要があります。例えば、問合せの電話がつながりにくいという問題も、問合せに答えるチャットボット(自動応答システム)のようなものがあれば、そもそも問合せの電話を減らせますし、国民にとっても情報が取りやすくなります。

感染者の集計がFAXの手入力からシステムに変更されますが、そういうことを経営支援・生活支援の分野でももっと進めるべきです。

−−そのための予算は、ちゃんとつきますかね…?

その必要性が理解されてはじめて予算になります。現場はもちろん分かってますが、それが予算をつくる人に伝わるかがポイントです。

今回に限らず、繁忙期を役所がどうやって処理してるか知ってますか?1人あたりの労働力で調整してるんです。つまり残業です。国家公務員には労働基準法の労働時間規制が適用されないので青天井で残業をさせることができます。ほとんどサービス残業なのですが。

でも、声をあげないんです、実務をやっている公務員は。自分たちは国民のために仕事する存在である、と叩き込まれていますから。役人は、自分たちが忙しいことを理由に「できない」と言い訳をすべきでないという「公務員の美徳」みたいなものがあるんです。だから、なかなか声をあげる人は少ないです。

−−では、どうすれば

世の中が声をあげることだと思います。毎日徹夜している人にこれ以上何かを求められません。

さっき言ったように、今は国民の声がかつてなく政治に届きやすい状態です。国民への支援策の要求は政治家に届いて制度になるけど、実務が本当にまわせるのかという検証を誰もせずに、「いいから早くやれ」という指示だけが降りてきます。その、しわよせは常に現場にいきます。これまでは、何とか超長時間労働で乗り切ってきましたが、今回は無理です。

−−政治家に実務の大切さを理解してもらうということでしょうか

はい。政治家は、役人とは違って超競争市場で戦う民間人なんです。小選挙区制になり、組織票が減って浮動票が増えてきて、競争はどんどん厳しくなっています。

次の選挙で勝つために、人気をあげなくてはいけない。そうじゃなきゃ失業です。国民のための支援策は人気にダイレクトにつながりますよね。支援策を届けるための役所の実務は、すごく大事なんだけど、それに予算をつけてもあまり人気は上がりませんよね。でも、多くの人が実務の大切さに気づいて声を挙げたら、政治家は一生懸命動いてくれると思います。

今回で言うと例えば「 #役所のパンクを解決しろ 」ですかね。国会議員はほとんどTwitterをやってますし、メンションしたら必ず見ますよ。

「伝わる」ことが日本の政策が良くなる希望


−−話は変わりますが、そもそも行政制度は、なぜこんなに分かりづらいのでしょうか?

国民に直接伝える必要がなかったことが大きいと思います。

先ほど組織票の話をしましたが、昭和の時代は今ほど国民が多様化していませんし、業界団体や労働組合など、だいたいどこかの団体に属していることが多かったんです。役所が政策について意見を聞くのも、そうした団体が同じような利害を持つ会員の人たちの意見をまとめて届けてくれました。また、決まった政策の内容も団体が役所に代わって会員の方々に伝えてくれていました。

企業に例えると、「マーケティング」と「広報」の機能を、こういう団体が担っていたんです。だから、国が国民に直接何かを伝えるなんていう仕事は、霞が関のほとんどの部署に存在しなかったんです。

−−つまり一般向けではなく、プロ向けにしか伝えてこなかった

そうです。業界団体の人や大手メディアの人なんかも仕事として役所と付き合っているので、その意味では政策のプロなんです。今は、どの団体も組織率が下がっているので、国の政策担当者も、直接プロでない人たちに伝えないといけない状況になりました。それは、新しい仕事なので霞が関に得意な人がいません。

私は「キュレーションと翻訳機能」が必要だと考えています。たとえば制度の内容を分かりやすいカタログにするだけならPR会社にお願いすればいいですが、それだけでは山のように支援策があるので、見た人が「自分がどれを選んで何をすればよいか?」を理解するのは難しいと思います。

例えば「子育て中の親御さん」「ひとり親家庭」「学生」「外国人」「中小企業」「介護事業者」「飲食店」「NPO」など、ターゲットによって必要な情報は違いますよね。支援策すべての情報が必要なわけではありません。また、それぞれ前提知識などが違うので、ターゲットによって同じ制度でも伝わりやすい説明の仕方も変わりますよね。

ターゲットごとの情報の選別や行政の文章を分かりやすく書き換えること、ビジュアルをデザインすることが必要なんです。それを「キュレーションと翻訳機能」と言っています。

−−なるほど。このピンチ・ヒッターもそういった思いで立ち上げました。

同じ課題意識を持っていると共感しました。

私は、こうやって一般の人に政策の内容が「伝わる」ことにしか、日本の政策が良くなる希望がないと思ってるんです。

−−「伝わる」ことが政策を良くすることにつながる。どういうことでしょうか?

GW中に成立した補正予算に、全国民に一律に10万円を配る特別定額給付金が盛り込まれました。あれ、一度すごく困っている世帯にだけ30万円配るという内容で閣議決定していたのですが、あまりに反対が大きかったので、閣議決定をやり直して全国民一律10万円になったんです。

これまでは絶対にありえないことでした。それほど、国民ひとりひとりの声が政策決定に影響を与えている状況に、今なっています。

声があがるためには、まず支援策の内容がちゃんと伝わることが大事です。理解せずに勘違いしてたくさんの声が上がったら、政策の決定も間違えてしまいますよね。ちゃんと中身が国民に伝わった上で意見が出てくれば、そこから解決策の議論につながり、それが政策として実現していく。伝わることは最も大切な出発点なんです。

−−ブログやSNSで発信を続けているのはそういう思いなんですね

10年前にブログで政策のことを書き始めたのですが、当時から池上彰さんの番組がとても人気でした。当時、私は児童虐待の政策を担当してたんですが、めちゃくちゃ正確に伝えていた。ただ、児童虐待の状況、子どもを救うための仕組み、政策について説明しているだけなんですよ。その番組が20%以上の視聴率をとるんです。

ああ、やっぱりテレビを見ている一般の人もみんな正しい内容を知りたがってるんだ、伝わらないのは伝え方が悪いんだなと思いました。僕が見ても役所の広報はとても分かりにくいと感じていたので、じゃあ自分でやってみようと、そう思ってブログを始めたんです。

−−確かに、知りたいのに分からない、という感覚かもしれません

はい。そして私は、ちゃんと伝えたら必ず分かっていただける、とも信じてます。

SNSで発信していると、官僚が嫌いな人もいるのでとんでもないリプが飛んでくることもあります。でも、絶対にブロックはしません。全国民が自分のお客さんだと官僚時代から思っているのと、「伝わる」と信じているからなんです。

ちゃんと説明したら、どんな批判的な人も賛成はしないかもしれないけど、ある程度は理解してくれるんです。100反対だったのが50反対くらいになると言いますか。8本の法律改正に携わりましたが、法律を作るときに、過半数が賛成すれば反対派の人はどうでもいいとは思っていないんです。なるべく多くの人が、その法律を「いいね!」と思ってくれないと、その法律・ルールは守られにくくなるんです。

−−私たちは、どうすればいいでしょうか?

繰り返しですが、声をあげてもらえれば決定権を持っている人に届きます。

まずは内容を知って理解していただいたら、「これじゃあ困る」「もっとこういうことが必要だ」と思うことがありますよね?そういう声を率直にあげることで十分です。多くの声がとどけば、解決策は官僚や政治家などが考えます。それは政策のプロの仕事です。

その声を、見える形であげてください。自分の選挙区の政治家にいうのが一番効果的です。直接事務所に言ってもよいですが、一番手っ取り早くて効果的なのは、Twitterだと思います。ほとんどの国会議員はtwitterをやっていて本人が見ますから。

政治参加は選挙だけじゃないんです。むしろ、選挙と選挙の間が大事なんです。一つひとつの政策が決まる時に声をあげてもらえれば、よりニーズにあった政策が実現します。

今、私がメッセージをひとつ選ぶとしたら「 #役所のパンクを解決しろ 」ですね。是非共感する方はお願いしたいと思います。

国民向けの直接の支援策は政治家も一生懸命耳を傾けるから自然と実現していきますが、役所の実務なんて地味な話で人気にもつながらないから中々取り上げないんです。でも、ここを解決しないと、どんなにいい支援策も届かないんです。

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