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スタッフ70人、解雇せず乗り切る。 地方ホテルの人事戦略

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スタッフ70人、解雇せず乗り切る。
地方ホテルの人事戦略
役員報酬返上、役職撤廃、定年廃止。売上8割減の苦境に立たされたプラトンホテル四日市(三重県)が、決死の覚悟で再生へと動き出しています。最大の原動力は、働くスタッフへの思い。70人の雇用を守り、存亡の危機を脱するにはどうすればいいか。支配人の黒田美和さんにお話をうかがいました。

活用した支援制度

  • 雇用調整助成金
  • 緊急雇用安定助成金
  • 新型コロナウイルス感染症特別貸付
  • セーフティネット保証制度
  • 危機関連保証制度
  • 特別利子補給制度
  • 持続化給付金
  • 三重県新型コロナウイルス感染症拡大阻止協力金
  • 宿泊予約延期協力金(三重県)

役員報酬を全額返上、スタッフに示した覚悟


ーーコロナの影響が長引いていますが、足元の営業状況はいかがでしょう?

春先から宿泊、宴会ともお客様が減り、直近の8月の売上は8割減でした。7月は6割減ほどまで持ち直したんですが、感染第二波が来てしまいキャンセルが相次いでいます。

もちろんこんな危機は初めてです。正社員とパート、アルバイトを含めたスタッフは約70人。雇用をなんとしても守りながら、会社として生き残るためにどうすべきか。


(プラトンホテル四日市)

ーーまず、どう動かれたのでしょうか?

いち早く融資を受けることにして、ひとまず1〜2年先をなんとか生き延びるための資金を確保しました。雇用については、雇用調整助成金を使ってどう乗り切るか。労務担当者と制度の中身を一緒に勉強して、実際にどれだけの助成金が支給されるのかシミュレーションを重ねました。

売上がほとんどない状況ですから、スタッフたちは「自分たちはどうなるんだろう」「会社はつぶれないのか」「給料はもらえるのだろうか」と、間違いなく不安に駆られていたはずです。ですから、社内向けにどんなメッセージを発するか。これも大事なことでした。

ーーどんなメッセージを発信したのでしょうか?

会社は生き残りをかけてがんばるから、みんなも必死で働いてほしい。会社や私自身の覚悟を示すことが重要です。

まずは役員報酬を1年間、全額返上することを決めました。でもこれは、「だから経費を削減してほしい」とか、そういうことではないんです。私はそれくらいの覚悟でこれから臨んでいく。あくまでそういう覚悟を形にしただけのことです。

そしてスタッフには、シフトは正社員から入ってもらい、パートとアルバイトには休んでもらうこと。そして、休みにする場合は休業手当の具体的な金額をはっきり伝えました。

同時に、これを機に業務も1から見直すことも伝えました。少数精鋭でやっていかないといけない状況ですから、例えば宴会のスタッフもフロントやベッドメイク業務などができるように。つまり、マルチタスクですね。スタッフには4〜5月の2カ月間で一通りの基本的な仕事を覚えてもらうようにしたんです。


(長期滞在した宿泊客に感謝の思いを込め、最終日の朝食時にサプライズで特別メニューを提供。左側の2人は今年入社した新卒社員)

情報はすべてオープンに。文書と説明会を計8回


ーースタッフへの伝え方にも気を使う必要がありそうですが…

スタッフが不安にならないために、情報はすべて透明化することを意識しました。厳しい経営状況、それに対する対策、これからのビジョン。とにかく情報は包み隠さず、すべてオープンにすることを徹底したんです。

休業などを告げる際には、スタッフ全員にこれまで文書で5回、説明会を3回開催しました。

文書は全スタッフが閲覧できるWeb上にアップし、休業中で出勤していないパートやアルバイトには郵送しました。一方通行の伝達だけでなく、説明会では質疑応答の時間を設け、その場で即答できない場合は、後日、回答を開示するようにしました。

スタッフからの質問では、収入に関するものが多かったですね。回答は、「助成金を使って給料の○割を保証する」とか、数字も含めてなるべく具体的に答えるようにしました。

どの対策も、迷いはなかったですね。これはホテルの生き残りをかけた闘いです。そのために必要なこと、できることをやる。その一点だけでした。

ーースタッフの反応や、その後の変化はいかがでしょう?

最初は温度差があったんです。「なんでもします!」と前向きに応じてくれる人もいれば、中には「急に言われても…」と戸惑う人もいました。スタッフとは一人ひとり、定期的に30分程度の面談を行ったりして、悩みや不安を聞くようにしています。

それから数カ月経った今、スタッフの表情は変わり始めています。最初は半信半疑だったのが本音だと思いますが、だんだん「黒田さんが言っていることはこういうことなんだね」と、腹落ちしてきているように見えます。

情報をすべてオープンにしてきたことで、私たちの覚悟が少しずつ伝わり、一体感が生まれてきていると思います。


(定期的に開催している、食材の生産地などを訪問する社員研修ツアー)

人間尊重型経営で、顧客満足度No. 1のホテルへ


ーーまだ厳しい経営状況が続きそうですが、今後に向けてはどんなビジョンを?

私が支配人になって約8年。このホテルで何を実現させたいのか。何を大切にして経営していくのか。この期間に自問自答を繰り返す中で、ある伴走者との出会いによって、改めて経営の原点に立ち返ることができたんです。「そうだ、私はこんなホテル(会社)をつくりたかったんだ」と。

ーー経営の原点とは…

人間尊重型の会社をつくることです。何よりも私は、スタッフたちが誇りとやりがいを持って働ける会社をつくりたかったんです。

そこに立ち返れた今、足元は確かに厳しい状況ですが、むしろこのタイミングをうまく使って経営改革を進めようと決めました。そして7月のある日、役職者を集めた会議で「第二創業期をスタートさせます」と宣言したんです。

ーー第二創業期ですか。

そこで中期目標の1つとして、2022年7月の10周年迎えるまでに、四日市で顧客満足度No. 1のホテルになることを掲げました。

ただ、それは単に顧客サービスを高めるということではありません。先ほど言ったように、スタッフが誇りとやりがいをもって働けるようにすること。それが結果的にお客様に還元され、地域No. 1の顧客満足度につながる。それが私の描く理想のホテル経営です。

それを実現するために、まずは人事戦略を抜本的に見直すことから始めました。


(生産地を訪ねるプロジェクトで、スタッフは漁や加工作業を体験)

ーーどんな人事戦略なんでしょうか?

大きな戦略転換の1つが、役職の撤廃です。部長、課長などの役職を撤廃することで、役職に基づく上下関係をなくし、一人ひとりが担う「役割」に基づくフラットな関係をつくることにしました。

パート、アルバイトも同様です。単に雇用形態が違うだけで、スタッフにはそれぞれに強みや才能、役割がある。正社員だから責任のある仕事をするのでなく、どれもこのホテルには欠かせない大事な仕事。スタッフには、「私がいるから、このホテルはある」と、これまで以上にそういう意識で働いて欲しいんです。

ーーほかにはどんな制度改革を考えているんでしょうか?

例えば、異動願いを出せる制度の導入や定年制度の廃止も考えています。会社が考える適材適所の配置だけでなく、スタッフの希望にも応えられるような体制もつくろうと。定年に関しても、やる気があれば長く働けるように就業規則を変えようと思っています。


(7月にオープンしたビアガーデンの料理についてスタッフと話し合う黒田さん=写真右)

ーーそれによって、どんな効果を期待しているのでしょう?

そうなればきっと、一つひとつの仕事にやりがいや達成感が生まれて、仕事が楽しくて仕方がなくなるはずです。楽しく仕事するスタッフが増えれば、それは足し算ではなく、2倍、3倍の掛け算の成果となって現れてくると思うんです。

スタッフの表情が生き生きしてきているように、この数カ月間で少しずつですが、変化の兆しが見え始めています。

実は先日も、昨年入社した50代女性のスタッフと面談したんですが、「こんなにいろんなことにチャレンジさせてもらえてありがたい。楽しくて仕方がない」と言ってくれたんです。ホッと一安心するとともに、心底うれしかったですね。

ーーものすごいスタッフ愛ですね。

とにかく、ここで働くスタッフに仕事にやりがいを感じてもらい、幸せになってほしい。ここはスタッフが主役の会社です。スタッフに成功体験をどんどん積んでもらって、自分の居場所であることを実感し、楽しく働いてもらうことが、私の何よりの喜びなんです。

こうして新たなスタートラインに立つことができたのは、今年から一緒に経営戦略を考えてくれている外部の伴走者の存在も、とても大きいんです。外部といっても、もう一心同体の同じ船に乗っている仲間です。このご縁にも、本当に感謝しています。

四日市で顧客満足度No. 1のホテルになる。これは、私だけで実現できるものではありません。ここに魂を吹き込むのは、スタッフみんな。全員で一緒に築き上げていくものです。みんなで力を合わせて、必ず実現させたいですね。このホテルに関わるすべての人たちに、「プラトンホテルに出会えてよかった」と思ってもらえるような存在になることを目指していきます。

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